地球生まれ地球育ち

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「なにがあってもいきのびること」

「本当に怖いのは、世界から喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ」

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読書をしようと思ったのは、ほんの一ヵ月くらい前のこと。

幼少期から本を読むのは好きだったが、大学生の頃からその数は激減し、社会人になってから全く読まなくなってしまった。

忙しくて本屋に行かなくなったのも理由の一つだが、何より本の値段が安くはないからだ。文庫本1冊630円でスタバの新作が飲めるし、ハードカバーの新作なら一蘭の豚骨ラーメンに替え玉とゆで卵をつけられてしまう。知的好奇心より三大欲求の一つには勝てなかった。美味いものは幸せ。

そんな自分の読書のきっかけは、ある意味拗れている。

端的にまとめるとSNSの文章に飽きたから。

会社の休み時間や通勤途中、デートの最中等々エトセトラ……暇さえあればスマホTwitterとインスタ、あとグーグルがおすすめしてくる関連記事を反復横跳びで何年も過ごしてきたが、だんだんその「薄さ」に飽きてしまった。

ブログでも記事でも文体が基本一緒だし、文量自体が短すぎるし、セフレぴえんと不倫とモラハラ人間のジャンルが横行してるし、唐突な場面展開に体言止めやエモーショナルなポエム調での自分語りにお腹が(いろんな意味で)痛くなるし、隙あらばPRで小銭稼ぎの精神が見えてしまうと物理的に燃やしたくなってしまうし……(※個人の感想であり特定の誰かを略)

ただ、そういう文章って素人が無料でそれなりのものが読めるから面白いのであって、それにクオリティを求めるのは全然違う問題な気がする。俺は好きにやるからお前も好きにやれ、がこのZ時代を生き抜くために必要なのだ、云々。

そうこうしているうちにSNSで無料の文章に時間を費やすのがだるくなってきて、「課金された文章」が読みたいというところから読書をする流れになった。

そうなると今度は本屋で身銭を切って買った本を読みきって終わりにするのはもったいなくて、小学生ぶりに読書感想文でも書いてみようかと思いついたのだ。これで心置きなくメルカリに出せるのも理由のひとつです、てへ。感想文といっても真面目に書く気はサラサラ無く、好き勝手思ったことを書くことにしよう。

そういうわけで、前座は終了。

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社会人になって3年目。

昔からメンタルが弱い自分は3社目でも仕事の人間関係に辟易していて、俗にいう「人間嫌い」になっていた時期があった。

社内の人間全員が嫌いすぎて辛くなった結果、「よく考えれば人間って精子卵子が混ざり合ってできた細胞が排出されて行動されているから【人間】というより【細胞】だと思って対応すれば気持ちが楽になるのでは?」と帰りの電車に揺られながら思っていた。今思えばかなり病んでいる。我ながら書いていて引いた。大変だったね、過去の自分……今でも大変だけど…。

『地球星人』では34歳の女性、"奈月"が主人公だ。彼女は自分のことを「地球人」ではなく「ポハピピンポボピア星人」だと"知っている"というぶっ飛んだ女性である。というか村田紗耶香さんが書く女性(主人公)は基本脳みそがぶっ飛んでいる。

"奈月"は現代社会のいわゆるジェンダーや家庭内問題、性犯罪といった「地球的」暴力に散々痛めつけられているものの、「つら。。。誰かこの後飲みで話聞いてくれないかな。。。(ぴえん)(泣き笑い)」とインスタクソストーリー女的展開になることは無く、ただただ「ポハピピンポボピア星人」として物事を見て、「地球星人」に洗脳され「地球星人」になりたいと願っている。

母親は明らかに姉ばっかり贔屓するし、姉は姉で性格悪く突っかかってくるし、性被害を友達に告白してみても「いつまで引きずってんの」と二次被害を受けるし、真っ当な「地球星人」なら復讐見返スカッとジャパンなTwitterブロモーション漫画の主人公になれる。しかし"奈月"は「ポハピピンポボピア星人」のため、呪いを打ち込まれても泣き喚かない。すり抜けドットコムで契約結婚した夫と、かつて結婚を誓った従兄弟の由宇だけが、彼女を「ポハピピンポボピア星人」だと知っていて、色々あって3人で「地球星人」から逃げ出す──とここまでは自分でも納得できる話の展開だったが、終盤になった途端、苛烈さがタワーオブテラーで急上昇急降下する。なんかもう全盛期の入間人間を彷彿させた(分かる人には分かる)。密やかに、それでいて壮絶な凄惨さ。

村田さんは『コンビニ人間』の時もすごかったが、『地球星人』はギアが3段階ほど上がっている。振り落とされないか試されているのか?村田さん初心者は『コンビニ人間』から入ってたほうがいいかもしれない。こっちも面白いよ!!

それにしても主人公の"奈月"、周囲の環境はジェンダーあるあるで傷つけられていたが、自分の周囲の男("夫"と"由宇")を静かに熱狂へと誘ってもいるので、ある意味魅力的な人間であり、冷静に、真っ当にぶっ飛んでいる。打ちひしがれた悲愴さも、怨みに燃える情熱もなく、ただただ彼女は「地球星人」になりたかった「ポハピピンポボピア星人」だ。

地球で「地球星人」として暮らすのはしんどい。

こちとら上司は相変わらず指示不足で後から文句をつけるし、後輩はミスを指摘しても「私じゃありません」と謎のスポ根で否定するし、そこまで仲良くない大学時代の友人に「ヨヨちゃんは彼氏ホントにできなさそう(笑)」とか言われるし、給料は税金で持ってかれて手取り19万だし。生きるって辛い(壮大な結論)

 

とりあえず私はポハピピンポボピア星人ではなかったけど、地球星人の皮を被った「何か」ではありたいと思っている。

 

 

芥川賞を受賞したのはこっちの作品。

こちらはただただ「コンビニ人間」だった主人公のお話。